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植田司法書士事務所

相続手続きについて

遺産分割では全ての遺産を相続人の合意で分割することができるのでしょうか。(遺産の範囲について)

この記事では、被相続人に関する財産が相続財産として遺産分割協議の対象になるのか、それとも、相続人固有の財産として遺産分割協議の対象にならないのかについて具体的に記載しております。

大阪府八尾市の司法書士事務所です。

遺産分割 遺産の範囲 

民法896条により、

被相続人が相続開始時に有していた財産的権利義務すなわち遺産は、被相続人の一身に専属するものを除いてすべて相続の対象となり、相続の開始により相続人に承継されます。

第896条

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

 

被相続人の一身に専属するものとは

被相続人の一身に専属するものとは具体的には何のことでしょうか。

 

明文の規定があるもの

  • 代理権(民111条1項)
  • 使用貸借における借主の地位(民599条)
  • 雇用契約上の地位(民625条)
  • 組合員の地位(民法679条)

雇用契約上の地位で言いますと、どこかの会社で働いていた人が亡くなった場合、その相続人が亡くなった方が働いていた会社で働くことにはならないということです。

 

明文の規定がないもの

  • 扶養請求権
  • 財産分与請求権
  • 生活保護法に基づく保護受給権

ただし、一定額の給付請求権として具体化していた場合(例えば、扶養料について一定の給付を定める調停が成立していた場合など)は、一身専属性が消滅して相続可能となります。

 

遺産分割の対象になる財産

しかし、相続の対象となる遺産が全て遺産分割の対象となるわけではありません。

財産の種類によっては、遺産分割の対象にならず、当然に相続人に相続される財産があります。

遺産の範囲の確定の為に、当該財産が性質上、遺産分割の対象になるのかが問題となります。

以下個別に見ていきます。

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参考

遺産分割について詳しく知りたい方は、「遺産分割協議とは何ですか」の記事をご覧ください。

 

不動産、不動産賃借権

土地や建物その他の定着物である不動産は遺産分割の対象となります。

農地についても遺産分割の対象となります。

 

不動産賃借権は、借主の死亡により消滅しませんので原則相続の対象となります。

不動産賃借権は不可分債権(分かりやすく言うと、複数人が分けることができない給付を受けることができる権利)ですので、相続開始により共同相続人による準共有状態(分かりやすく言うと、共同して持っている権利)となりますので、これを解消するには遺産分割手続きが必要で、遺産分割の対象となります。

 

預貯金

以前は、金銭債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという過去の最高裁判決により、相続人間で遺産分割対象に含めるとの合意があって初めて分割対象とすることができるとしていました。

しかし、最大決平成28年12月19日は「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」と判示し、判例を変更しました。

この決定により、遺言、相続人全員の合意、遺産分割協議による合意、家庭裁判所の調停・審判に従い、払戻しに応じることになり、相続人の一人からの法定相続分の一部払戻し請求には応じないことになったと思われます。

預貯金については遺産分割の対象となります。

 

現金

現金は、動産として遺産分割の対象となります。相続時および遺産分割時に有体物として保管されていなければなりません。

共同相続人の一人は、他の共同相続人に対し、遺産分割前に相続分相当額の金銭を交付するように請求することはできません。

 

国債

国債は、購入者と国との間の消費貸借契約類似の契約であり、国に対する請求権でありますので、相続により相続人に承継されるものと考えられています。

そして国債は相続と同時に当然に分割されるものと考えられておらず、遺産分割の対象となります。

 

株式などの社員権

株式会社の株式

株式の社員権は議決権等の共益権と自益権を含む社員の会社に対する法的地位と解すべきあるから、株式は不可分であり、遺産分割がなされるまでは共同相続人が株式を準共有する状態となり、遺産分割の対象となると考えられています。

 

有限会社における出資持分

会社法の施行により有限会社は廃止されましたが、会社法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律により、旧有限会社は株式会社として存在していますので、株式会社の社員権と同様に、出資持分は、遺産分割の対象となります。

 

持分会社における持分

持分会社においては、社員の地位は死亡が退社事由となっています(会社法607条1項3号)ので、社員権は相続の対象となりません。

相続人は死亡による退社を原因とする持分払戻請求権を有することから、相続人は持分払戻請求権を相続分に応じて共有することになり、遺産分割の対象となると考えられます。

 

動産

動産類も共同相続人の共有物として遺産分割の対象となりますが、特定することが難しく、遺産分割の対象とすることが難しい場合があります。

 

生命保険金

生命保険金については、場合によって違いますので、細かく分けて見ていきます。

 

保険契約者(被相続人)が自己を被保険者とし、相続人中の特定の者を保険金受取人と指定した場合

指定された者は固有の権利として保険金請求権を取得しますので、遺産分割の対象とはなりません。

 

ただし、相続税法上は、生命保険金は受取人が相続人の1人と指定されていたとしても相続財産として扱われ、申告の対象となり、他の相続人に生命保険金の存在が明らかになることになります。

 

保険契約者(被相続人)が自己を被保険者とし、保険金受取人を単に「被保険者又はその死亡の場合はその相続人」と約定し、被保険者死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合

保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に相続人の固有財産となり、被保険者の遺産から離脱しますので、遺産分割の対象とはなりません。

各相続人は相続分の割合により保険金請求権を取得します。

 

保険契約者(被相続人)が自己を被保険者とし、保険金受取人を指定しなかった場合

保険約款及び法律の規定に従って判断することになります。

約款に「被保険者の相続人に支払います。」との条項がある場合には、保険金受取人を被保険者の相続人と指定した場合に同じになりますので、その相続人が固有の権利として取得することになり、遺産分割の対象とはなりません。

 

保険契約者(被相続人)が被保険者及び保険金受取人の資格を兼ねる場合

(1)満期保険金請求権

満期保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に被相続人の財産となるから、満期後被相続人が死亡すれば遺産分割の対象となります。

 

(2)保険事故による保険金請求権

保険事故による保険金請求権については、保険契約者の意思を合理的に解釈すれば、相続人を受取人と指定する黙示の意思表示があったと考えられますので、被相続人死亡の場合については、保険金請求権は相続人の固有財産となります。遺産分割の対象とはなりません。

 

第三者が被相続人を被保険者及び保険金受取人として保険契約を締結した場合

被保険者(被相続人)の死亡のときは、その相続人を受取人に指定するとの黙示の意思表示があったと推定できますので、保険金請求権は、受取人(被相続人)の相続人の固有財産となります。

遺産分割の対象とはなりません。

 

死亡退職金

(1)国家公務員の死亡退職手当

受給権者固有の権利であり、遺産分割の対象とはなりません。

国家公務員退職手当法2条の2は、受給権者を遺族とし、受給権者の範囲及び順位を法定していますし、受給権者の範囲及び順位は民法の定める相続人の範囲及び順位と異なっています。

専ら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的として受給権者を定めたものと考えられています。

 

(2)地方公務員の死亡退職手当

条例において国家公務員退職手当法と同様の内容を定めているときには遺産性が否定され、遺産分割の対象とはなりません。

 

(3)私立の学校法人の職員の死亡退職手当

特段の事情のない限り、遺産性が否定され、遺産分割の対象とはなりません。

 

(4)特殊法人の職員の死亡退職金

特段の事情のない限り、遺産性が否定され、遺産分割の対象とはなりません。

 

(5)受給権者が規定されていない場合

死亡退職金支給規定の定めのない財団法人が、死亡した理事長の配偶者に対して死亡退職金の支給決定をした上でこれを支払った場合、死亡退職金は、配給者個人に支給されたものとして、遺産性が否定され、遺産分割の対象とはなりません。

 

(6)遺族給付

損失補償、遺族年金、弔慰金、葬祭料等については遺族固有の権利と考えられ、遺産分割の対象とはならないと考えられます。

 

協同組合の出資金

出資金の払戻請求権は単なる金銭債権と評価されることから、可分債権として遺産分割前において当然分割されると考えられます。

 

社債

社債については、共同相続人において準共有されると考えられ、遺産分割の対象になると考えられます。

 

代償財産

相続開始後、遺産分割までの間に遺産の存在形態変形した代償財産は、原則として遺産分割の対象とはなりません。

 

知的財産権

(1)著作権

相続により準共有になり、遺産分割の対象となります。

(2)工業所有権

特許権、実用新案権、意匠権、商標権は譲渡性が認められ、相続性を肯定することを前提とする規定も存在しますので、相続の対象であり、遺産分割の対象となります。

(3)商号権・不正競争防止法上の権利

商号権は経済的価値を有し、一種の財産権として譲渡することができますので、営業と相まって相続の対象となり、遺産分割の対象となります。

 

営業権

営業権とは、営業用財産を構成している動産、不動産、債権、無体財産権などの権利とは評価し尽くせない得意先関係、仕入先関係、営業の名声、地理的関係、営業上の秘訣、経営の組織、販売の機会などの営業に固有の事実関係であって財産的価値のあるものをいう。いわゆる「のれん」のことです。

営業権の権利性は否定され、営業権を遺産分割の対象として特定の相続人に取得されることはできません。しかし、特定の相続人が営業権を承継し、営業権が相当な価格と評価される場合は、遺産分割上考慮される必要があります。

 

金銭債務

金銭債務は、相続により当然に各相続人に相続分に応じて承継されるので遺産分割の対象とはなりません。

 

連帯債務

連帯債務については、共同相続人に法律上当然に分割され、各共同相続人は、その相続分に応じて債務を承継し、その承継した範囲内で本来の債務者とともに連帯債務者となります。

 

保証債務

(1)身元保証

判例は身元保証契約の相続性を否定しています。

(2)信用保証

判例は信用保証の相続性を否定しています。

(3)通常の保証

相続性が肯定されています。

遺産分割の対象とはなりません。

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